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no.104
出会い 二編
 十二月はじめのある日、吉祥寺駅前のバス停に並んでいたら、「このバスは北町一丁目へ行きますか?」と声をかける人がいた。振り向くと、きちんとした身なりの老婦人だった。

 彼女とはそれをきっかけに話しはじめた。
「ポン女の同級生と待ち合わせをしたのに来ないから帰るところなのよ。いい加減あたまにきて安定剤を飲んじゃったわ。水が無いからペットボトルを買ったのよ」と言ってそのペットボトルを私に見せた。

 ちなみにポン女とは日本女子大のことだそうだ。

 バスが来て私が先に乗り込んだが、彼女、バスのステップにつまずいてあたふたしているので、私は思わず手を差し出して彼女を引っぱり上げてしまった。今知りあったばかりの人なのにおもしろいなあ。

 バスの中でも私の隣に座って、「あなた、十年?私、大正生まれよ。十年だったら二黒土星ね。私は四緑木星よ。又お会いできると良いわね。家はすぐそこだから遊びにいらしてね」と、まあこんな内容だった。トータルで十五分ほどの出来事であった。

 それにしても、大正生まれで日本女子大とは、さすがに風格のある女性だった。ああ、たのしかった。

75.4  十二月半ば、各停の電車に乗るためにホームに立っていたら、これまで挨拶くらいしかしたことのないMさんが、私を見つけて小走りにやってきた。そして二人で優先席に座った。すると彼女、待ってましたとばかりに一気にしゃべりはじめた。

 彼女の夫の姉上が一人暮らしで七十六歳、少し痴呆が始まっていて目が離せないので夫と交代でその姉の家に通っていること、デイサービスも利用しているが毎日ではないので困っていること、特養や老人ホームも探しているがなかなか入居できないこと、家事が心配だから何とかして欲しいとご近所に迫られていること、まさに老人問題そのままであった。

 明日は我が身の私たち、彼女も七十代半ばで自分の体だけでも大変なのに、と愚痴をこぼしていた。

 彼女、よほどそれを誰かに話したかったのだろう。身をすり寄せるように、顔をくっつけんばかりにしてしゃべり続けた。

 私が下車する一つ前の駅で、着替えの下着の入った大きな紙袋を重そうに提げて、でもやれやれすっきりしたという様子で下りていった。

 余り身近な人には言えない話を、ちょっとした知りあいに話をすることで気が楽になる場合もある。お互い様、聞いてあげたり聞いてもらったり、ひととき考えさせられる時間であった。


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