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no.111
各駅停車
 私はもう何年も前から電車に乗る事を楽しんでいる。四季折々の景色の移り変わりを楽しむには各駅停車に限る。

 ある日、たまたま立ち寄った公民館で「新生」という冊子に出会った。パラパラめくっていくと、「乗り物のはなし」というコーナーがあり、その中に俳優、阿藤快さんの談話が載っていた。

 旅番組やバラエティ番組で、様々な乗り物に乗る機会が多い阿藤さんは、「電車は、活力を養う休憩場所です」と語っている。速さも大事だけど、急ぐ必要がない時は、各停に乗り車窓から見える景色を楽しんでいるという。阿藤さんにとって、電車はほっと一息つける場所、気持ちの切り替えが出来る場所なのだそうだ。

 よくぞ言ってくれた。まさに私の気持ちを代弁してくれたようで本当に嬉しくなった。

 ゴールデンウィークのある日、半年ぶりに千葉に住む娘宅を訪ねるため、東京駅から京葉線の各駅停車に乗った。まさに、ぶらり旅、の気分である。京葉線は駅の間隔が長いし、舞浜や、IT関連企業の多い、海浜幕張駅もある。付かず離れず東京湾も眺められるし、海上を飛行機が低空で飛んでいくのも見える。だから乗っているだけで楽しいのだ。

 私は残念ながら、テレビ番組、ぶらり旅、の様に下車して歩いてみるほどの体力はもうない。そこで景色の良い駅のホームのベンチでのんびりする事にしている。
 その日も、約束の時間より一時間ほど早く家を出た。私は、千葉みなと駅のホームで通過する電車を何本も見送った。海からの風が心地よくてぼんやり座っているだけで、心の整理が出来るような気がした。結局、家を出てから四時間ほどかけて娘宅に着いたのだが、ちょっとした旅行気分を味わう事が出来た。

 昨今、一分でも一秒でも速くと、速さばかりが優先され価値のあるもののように認識されている。私は、「そんなに急いでどうするの?」という言葉を飲み込んだ。グローバル化した複雑怪奇な現代社会では、それも致し方ない事だと重々認識しているつもりだ。

 でも私は、急用でない限り、各停に乗る事にしている。ゆっくり座って季節の移ろいを眺めながら日々のこまごまとした雑事を頭の中で整理するのだ。下車駅までに整理出来ない時は、二駅、三駅乗り越す事もある。急行に乗って五分や十分早く着いたところで、そのくらいの時間は何とでも埋め合わせる事は出来るもの。

 友人、知人の中には用事がなければ乗り物に乗らないし、乗っても用事だけ済ませてさっさと帰るという人もいる。もったいないなあ!

 私はこれからも、阿藤快さんのように、各駅停車に乗ってほっと一息ついたり、気持ちの切り替えをして英気を養っていこうと思っている。


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