no.113 img メニューへ img no.111



no.112
変身
 都内でタクシーに乗った折、ドライバーに聞いた話である。

 東京駅から新宿のPホテルまで乗せた客の事だそうだ。五十代半ばかと思われるその客は、ストライブのスーツに白髪まじりの髪を束ねており、デザイナー風な男性だったという。

  ところが話をしていく内に、高知県から上京してきたラーメン屋さんだったという事が分かったという。一年に一度、自分へのご褒美に変身して東京に遊びにくるのだと話していたという。

 まあ、おもしろい。私は現実にそんな人が居る事に興味を持った。と同時に変身という言葉が頭に残った。

 変身といっても二つのパターンがあると思う。一つは生まれ変わったら何になりたいかという変身と、現実を変えたいという変身である。

 私は変身という言葉から、まずカフカ著、「変身」という小説を思い出した。ある朝、主人公が目を覚ますと巨大な虫に変身していたという話である。でも、その結末はどうだったのかもう忘れてしまった。

 そこで身近にいる夫に聞いてみた。
 「変身するとしたら何になりたい?」夫は「人間だな」「虫はどう?」と私。
「いやだよ。それも男で超秀才がいいよ。自然に地位も金もついてくるだろうからさ」と言った。「ヘエ!そんな事考えているんだ」と私は夫の願望を垣間見てしまった。

 同年代の数人の女性たちにも聞いてみた。でも若い時なら別だけどこの年だもの。今更もういいわ、というのが大半の意見であった。

 そんな中、一人、六十代前半のYさんがこう言った。「生まれ変わったら絶対、男になりたいわ。独身で子供は作らず自由に世界を飛び回りたいわ」と。すごいなあ!とても家庭的な彼女。一見、そんな風には見えないのになあ。

 でも、実は私も絶対、男に生まれ変わりたいのだ。いろいろあっても現実は男社会だもの。この世の中を支配している男性の一員になって、その実態や妙味を味わってみたかったなあと思う。私は四人姉弟の長女で女の子一人だったせいか、母の弟たちに期待する気持ちや、今でいう男女の格差を実感していたからである。

 現実を変えたいという変身願望とは、美容整形、髪型、ダイエット、コスプレ、高価な商品を身につけて、あのラーメン屋さんのようにセレブ気分を味わうなどだろうか。

 中には素敵に変身して、周りの人たちの見方が変わったり人生まで変えてしまうようなチャンスもあるかもしれない。

 先日、NHKの番組、クローズアップ現代で、インターネット上の仮想社会」をテーマに取り上げていた。これも変身願望の表れなのかなあ!


Copyright (C) Benifude  All Rights Reserved.