no.88 img メニューへ img no.86



no.87
思わず、、、
 西武線でふと見かけた親子。かなり空いていたのだが三人分の席に、四、五才くらいの男の子が土足のまま立ったり座ったり、寝そべったリを繰り返していた。

 私は見るともなく見ていたが、二つ三つ駅を過ぎたころ、もう我慢も限界に来て思わず、
 「ちょっと、靴脱がせたほうが良いんじゃない。ひどすぎるんじゃない?」と母親に言ってしまった。三十代前半と思われるその母親は私をきっとにらんで、しかし一言も発せず子供に靴を脱がせた。

 そのあと、乗客達はその子が土足で暴れていたのも知らず、次々に座ったのだ。もちろん自分の前にどんな人が座っていたかなんて誰にも分からないけど、私には見て見ぬふりはとてもできない。見逃すことの方がよほど苦しいのだ。けれど、そう言ってしまった私自身も半ば興奮していた。

 そのあと私は大江戸線に乗り換えたが、いつもながら優先席にも若者らが知らん顔して座っていた。当然譲ろうともしない。私はここで又爆発してしまった。私はニ両ほど車内を歩いて四人掛けの優先席が一つ空いているのを見つけて滑り込んだ。そしてそのドア側に座っていた老年の男性に、思わずこう言ってしまった。

 「優先席ですものね。黙っていたって譲ってくれませんものね。私は近ごろ我慢できず言ってしまうんですよ」

 すると顔色の良い元気そうなその男性は、「ほんとにそうですよ。今どきの若者はたるんでますよ。東大出たって頭が良くたって使い物になりませんからね。もう一度戦争でもすればいいんですよ」としゃべり始めた。

 それから延々と、社会が悪いとか、第一、近ごろの親がなっていないとか、甘やかせ過ぎだとか、辺りかまわず興奮して二人でしゃべりまくってしまった。男女二人の老人?がしゃべりまくっている様子に他の乗客らは我関せずであった。でも当然聞こえていただろう。

 その男性は中小企業の会社を十三年前に退社したそうで、今日は代々木のプールにシニアの代表で泳ぎに行くのだと言っていた。一分三十秒で百メートルを泳ぐのだそうだ。すごいわ。さすが元気そうだったもの。

 五つほどの駅をおしゃべりしたのだが、言いたいことというか、言わずにいられなかった私は、日ごろのうっぷんを晴らした格好になってしまった。見てみぬふり、知らんふりのできない私は、よほど血の気が多いのだろう。


Copyright (C) Benifude  All Rights Reserved.