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no.89
うれしかった電話
 四月五日、その日は義妹と久しぶりに食事に行く予定だった。

 ところが朝起きて顔を洗っていたら、何かいつもと違う感覚があった。頭を上下したり左右に動かすと気持ちが悪く、ふらふらして何かにつかまりたくなってしまう。おかしいな。これまでもこんな状態は数えきれないほど経験してはいるが、それにしても半年ぶりくらいかな?どうしたのだろうとしばらく様子を見ていたがなかなか改善しない。約束の時間は迫ってくるし、断るのは悪いけどとても外へ出られそうにないと判断し、事情を説明して了解してもらった。

 その日はとにかくこの目まいがして頭を動かすと気持ちが悪いので、何も出来ずじっと座っているしかなかった。

 考えてみると、私は三十代半ばころから、こんな目まいを体験している。季節の変わり目やストレス、疲れ、睡眠不足などで症状が出るのだ。これまでの経験上、医者に行ってもどうせ理解してもらえないから、ひたすら座っているしかなかった。

 そんな午後三時ごろ、実弟から電話があった。その日約束していた義妹の夫である。

 日ごろ弟は冗談ばかり言うのでどこまでが本当なのか理解に苦しむ時もあるが、その日は「どうしたの?目まいがするんだって?」という言葉にはじまり、近況や健康状態などを優しく聞いてくれた。

 久しぶりのそんな弟の電話に私はジーンとしてしまった。ああ、やっぱり姉弟なんだなあ。元気なときはあまり感じないけれど、いざというときには力を貸してくれるのだろうなあ、と胸が熱くなる思いであった。

 二男である弟は子供のころから破天荒で型破りなところがあった。優しいのか面白いのか正体不明なのだが、容易に迎合しないところは私と同じかもしれない。だから思いがけない弟からの電話は本当にうれしかった。姉と弟だからこれまで深く関わることはなかったけれど、姉弟なんてこれで良いのかもしれない。

 近年、少子化が進み一人っ子が増えている。姉弟の中で育つ子供とは、当然人との関わり方や考え方が変わってくるだろう。それはそれで仕方ないけれどでもやはり姉弟はいたほうが良いと思う。お互いに揉まれて自然に人間形成がなされて行くと思うからだ。

 遠くの親戚より近くの他人というけれど、いざというときは他人は入り込めないし、やはり血縁に勝るものはないだろう。


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